武道用心記

■あらすじ
　富安真之助は、流人船から脱走した罪人・伝吉と出会い、彼の悲劇的な過去と復讐の動機を知る。伝吉の妹を弄び捨てたのは、同藩の侍である。
　義憤と恋心の狭間で苦悩しながら、武士の不義と人間の葛藤する侍の姿を描きだす。

■『武道用心記』登場人物一覧
・建野竜右衛門
　岡山藩の大横目（目付）。横紙破りと評される厳格な性格

・富安真之助
　竜右衛門の甥。癇癪持ちで、喧嘩癖があり、しばしば問題を起こす。武士としての誇りと正義感を持つ。従妹の双葉に想いを寄せる。

・建野双葉
　竜右衛門の娘。18歳の愛らしい少女。父の意向で越智孫次郎との縁談が進められているが、彼に対して心から好意を持てない。

・越智孫次郎
　若き侍で、竜右衛門の信頼を得ている。双葉の縁談相手。

・伝吉
　大坂天満筋の米問屋「大和屋」の跡取り。妹を孫次郎に弄ばれた末に亡くした過去を持ち、復讐を誓う。流罪となり、船破りで脱走する。

・お津多
　伝吉の妹。孫次郎に弄ばれ、身重のまま捨てられる。絶望の末、自害する。

・竜右衛門の家士（源吾）
　竜右衛門に仕える家士。流人脱走の事件を報告する。

・勘助
　真之助の下僕。真之助に忠実。

・流人たち（伝吉の仲間）
　伝吉の復讐を助ける無頼漢たち。最終的に孫次郎を襲撃するが、真之助に説得される。

・道藤太兵衛
　越智孫次郎と行動を共にしていた侍。流人たちに襲われる。


■用語集
大横目（おおよこめ）
江戸時代の役職で、犯罪の取り締まりや監視を行う役人のこと。特に、盗賊や放浪者を取り締まる役割を担った。

横紙破り（よこがみやぶり）
自分勝手に振る舞うことや、理屈を無視して強引に物事を進めることを指す俗語。

霖雨（りんう）
長い間降り続く雨。梅雨のようにしとしとと降り続く雨を表す。

流人（るにん）
罪を犯して流刑に処された人。島流しや遠地への追放刑を受けた者を指す。

紅絹裏（もみうら）
衣服の裏地に紅絹（もみ：赤い絹の布）を使ったもの。特に華やかで高級な仕立てを意味する。

懊悩（おうのう）
悩み苦しむこと。心が迷いや後悔でいっぱいになり、解決策が見つからない状態を指す。

獄衣（ごくい）
囚人が着用する衣服。特に、牢屋や監獄で支給される簡素な服装を指す。

七生（しちしょう）
仏教用語で、7回生まれ変わること。または、「七生報国」などの表現で、何度生まれ変わっても国や使命に尽くす覚悟を意味する。

閻王（えんおう）
仏教の地獄の王で、死者の生前の罪を裁く存在。閻魔大王（えんまだいおう）とも呼ばれる。

徹宵（てっしょう）
夜通し眠らずに過ごすこと。一晩中何かを続ける様子を指す。

しどろ（しどろ）
まとまりがなく乱れた状態。特に、話し方や態度が混乱している様子を表す。

輾転反側（てんてんはんそく）
悩みや不安のために眠れず、寝返りを繰り返すこと。心が落ち着かず、安眠できない様子を指す。