アジア無限回廊〈5〉タイ編

　この話は８０年代後半、アジア１６か国を１年３か月に渡って旅したノンフィクション旅行記である。当時、日本は好景気にわき、旅するぼくは様々な国で注目され、地元民の渦に巻きこまれ、不可思議な体験をさせてもらった。

　バンコク・ドンムアン空港の外に出た瞬間、大勢の客引きに囲まれ、白タクに乗せられ、ホテルに連れていかれた。翌朝、ホテルのロビーにたたずんでいた中国系タイ女性と知り合い、彼女の愛車でバンコク市内を案内される。その後、女性の従兄弟だという男も現れ、三人でパタヤを訪れたのだが……。またほかにも、タイ滞在の日本人を訪ね、いろいろなアドバイスを受けるはずであったが……。
　目論見とはまったく宛てがはずれた展開が次つぎに巻きおこる。

　タイ東北イサンの町を訪れた。メコン川向こうのラオスは、沈黙を守り、入国されることが許されなかった。旅行者は「入れない土地」に、無性に行きたくなるものだ。チェンカンという町を訪れた時、ラオスから来たという一行と出会った。場所を尋ねると「ノングペウ」という村らしい。地図を見ると、メコン川はラオス領に入っていき、タイと陸続きになる地点がある。
　ならばさっそく、ノングペウというラオスに村を訪れた。

　日本人旅行者はいたる国で見かけるが、バンコクは「貧乏旅行者」の溜まり場だった。日本人とは思ない日本人旅行者と、マレー鉄道の車内で知り合い、バンコク中華街の「旅社」をシェアした。旅社の周りには同じ穴のムジナの旅行者がたくさんたむろし、地元の商売人からはすこぶる評判が悪かった。
　商売人からは、ここに集まる日本人は（日本からの）難民なのか？　と尋ねられた。