アジア無限回廊＜3＞中国編

　この話は80年代後半、アジア１６か国を１年３か月に渡って旅したノンフィクション旅行記である。この当時、日本は好景気にわき、旅するぼくは様々な国で注目され、地元民の渦に巻きこまれ、不可思議な体験をさせてもらった。

初めて訪れた中国。悠々たる歴史の流れ、広大な風景、勤勉な人びとと、中国に入国するや否や、そんな幻想は一気に吹き飛んだ。上海の目抜き通りを歩くと、人びとにこづかれては追いこされ、クラクションをやたらめったら鳴らされて、チケット売り場で立てつづけに割りこまれる。飯屋では、いくら待っても服務員が注文を取りにこない。店屋で目の前の商品を指さすと「没有」（ない）と断られ、買えば買ったでつり銭を放りなげられる。
　そんななか、中国人とは思えないほどのファッショナブルな青年二人組に声をかけられた。共産党幹部の息子だという二人に、食事に誘われ、中国海鮮料理に舌鼓を打ったが……。

　桂林では二人組の女性に声をかけられた。ヨウセンという２０歳の娘は、片言の日本語を話し、容姿も美しい。会って間もなく「愛があれば結婚できる。中国人と日本人のあいだにも、愛さえあれば問題ない」と打ち明けられた。
　桂林は中国最大の観光地、切りだった山々が水墨画の世界と称される。ヨウセンにそんな悠久の世界を案内してもらう。
　その後、ヨウセンの家に呼ばれた。当時、中国人は外国人と接してはならぬ、というおふれがあった。周囲にばれないようヨウセンに連れられて中に上がると、そこは一般中国女性とかけ離れたであろう、女の匂いがプンプンする部屋だった。