作品紹介
この話は80年代後半、アジア16か国を1年3か月に渡って旅したノンフィクション旅行記である。この当時、日本は好景気にわき、旅するぼくは様々な国で注目され、地元民の渦に巻きこまれ、不可思議な体験をさせてもらった。
香港に魔窟があるという噂を聞いた。日本語の話せる老人は「城塞の中に入ると、まるで『メイズ』(迷路)のように入りくんでいてね。一度迷いこんだら、二度と出られない」という。
不穏な噂話は、なおも続く。無法地帯、犯罪者の巣窟、麻薬密売、アヘン生成、秘密工場、人肉売買……。そいつの名前は「九龍城」。日本語読みの「きゅうりゅうじょう」は、官能的なニュアンスを感じさせる。英語の「Kowloon City」は、しゃれた街を連想させる。広東語の「ガウロンセン」は、不気味な匂いを発するが、なぜかぼくの好奇心をかき立てた。
ぼくは「行ってはいけない」という周囲の忠告を振り切って、九龍城塞を訪れた。
九龍城塞に住んでいるという、上海から来た夫婦と知り合った。後日、彼らの部屋を訪れるが、城塞の中に一度や二度入ったからといって、そう容易くたどり着けるわけがない。どうにか訪れることができ、部屋でくつろいでいると、夫婦から意外な話を聞かされた。
二人は、香港が中国に返還される前に、上海に戻るという。そのため、今のうちに香港で資金を稼ぎ、上海で事業を始めるらしい。二人には子どもがいるが、小学生の息子は上海の実家に預け、中国の教育を受けさせるという。
中国返還を目の前にして、香港市民の動向が揺れうごくなか、この夫婦の将来設計は揺るがなかった。
香港に魔窟があるという噂を聞いた。日本語の話せる老人は「城塞の中に入ると、まるで『メイズ』(迷路)のように入りくんでいてね。一度迷いこんだら、二度と出られない」という。
不穏な噂話は、なおも続く。無法地帯、犯罪者の巣窟、麻薬密売、アヘン生成、秘密工場、人肉売買……。そいつの名前は「九龍城」。日本語読みの「きゅうりゅうじょう」は、官能的なニュアンスを感じさせる。英語の「Kowloon City」は、しゃれた街を連想させる。広東語の「ガウロンセン」は、不気味な匂いを発するが、なぜかぼくの好奇心をかき立てた。
ぼくは「行ってはいけない」という周囲の忠告を振り切って、九龍城塞を訪れた。
九龍城塞に住んでいるという、上海から来た夫婦と知り合った。後日、彼らの部屋を訪れるが、城塞の中に一度や二度入ったからといって、そう容易くたどり着けるわけがない。どうにか訪れることができ、部屋でくつろいでいると、夫婦から意外な話を聞かされた。
二人は、香港が中国に返還される前に、上海に戻るという。そのため、今のうちに香港で資金を稼ぎ、上海で事業を始めるらしい。二人には子どもがいるが、小学生の息子は上海の実家に預け、中国の教育を受けさせるという。
中国返還を目の前にして、香港市民の動向が揺れうごくなか、この夫婦の将来設計は揺るがなかった。
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