アジア無限回廊＜1＞韓国／台湾編

この話は９０年代後半、アジア１６か国を１年３か月に渡って旅したノンフィクション旅行記である。この当時、日本は好景気にわき、旅するぼくは様々な国で注目され、地元民の渦に巻きこまれ、不可思議な体験をさせてもらった。

　最初の国はトランジットで入った韓国。ビザなしトランジットなので、滞在１２０時間以内に、第三国に出国しなければならない（当時は韓国入国にビザが必要）。出国前のわずかな時間に、一人の韓国女性と知り合った。キム・ヒョン・チンという名の２１歳の女性は、知り合って間もないぼくに「わたしは自分を愛せない」と告白し、リストカットした手首を見せた。なぜそんな大切なことをぼくに告白したのだろうか。出国までの時間は刻々と迫ってくる。

　台湾では、ランユイタオという最南端の島で「漁人」と名乗るじいさんと知り合った。漁人のじいさんは日本語を話し、日本の軍歌を懐かしみ歌っていた。じいさんの家に呼ばれ、米酒を飲みかわしながら語らう。じいさんはぼくに「あなたが日本人だから家に呼んだんだ。台湾人だったら、上がらせないよ」といった。過疎化が進むこの島では、じいさんの子どもたちも台北など都市部に出ていってしまう。

　この旅物語は、香港、中国、フィリピン、タイ、ビルマと、１年以上続いていく。なお原本は、９１年に新評論から講談社文庫を経て現在、電子出版化して配信中。