作品紹介
【小学館の名作文芸朗読】
耳がシーンと鳴り、つく杖の音が戞々と響く。自分はいま、「阿呆!」という間の抜けた掛声を洩らしながら男を殴り、対手がくるっと後ろを向いて倒れるのを見て逃げ出したのである。歩きながら、自分は少しも悪いことをしていない、殴られた男こそ生きる資格もない卑劣漢で屠られるべき奴だと自らに言い聞かせる。しかし巡査を見るたびにぎくっとし、正義の意識とは独立に、対手に再び出くわすこと・追手に掴まることへの漠とした恐怖が蔓っていた。
耳がシーンと鳴り、つく杖の音が戞々と響く。自分はいま、「阿呆!」という間の抜けた掛声を洩らしながら男を殴り、対手がくるっと後ろを向いて倒れるのを見て逃げ出したのである。歩きながら、自分は少しも悪いことをしていない、殴られた男こそ生きる資格もない卑劣漢で屠られるべき奴だと自らに言い聞かせる。しかし巡査を見るたびにぎくっとし、正義の意識とは独立に、対手に再び出くわすこと・追手に掴まることへの漠とした恐怖が蔓っていた。
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