じんとくる近代文学の小品（第2巻）―7篇

　この第２巻で収録した次の7作品も、様々な「じんとくる」感情を読者にもたらす。
・織田作之助「木の都」―子供の頃住んだ大阪・口縄坂界隈にあるレコード店の主人との奇しき縁への感懐と、徴用で名古屋に行ったまだ小学校を出たばかりの少年を思う親と姉の心。
・太宰治「津軽　(抄)」―故郷の津軽訪問の最後に訪ねた幼少期の子守だったタケとの30年ぶりの再会での最初の戸惑いの後に、お互いじわじわと盛り上がる懐旧心、喜び。
・堀辰雄「曠野」―今昔物語にある物語。平安時代を舞台に、家が没落して落ちぶれた貴族の娘が、かつて愛した男と下婢として偶然再会し、激しい困惑と無念の中で息を引き取る悲哀。
・太宰治「眉山」―戦後の飲み屋の小説好きの女中がいつも粗相することをからかい蔑視していたが、実は理由があったことを後に知って抱いた深い後悔と同情の念。
・ドーデ「最後の授業」―普仏戦争でプロイセンに敗れたフランスのアルザス地方が舞台。学校嫌いの少年が明日から授業がドイツ語になると知って抱いた自国語の大切さを軽視した後悔、愛国心と失われた自由への悲哀。
・林芙美子「幸福の彼方」―戦時下、苦労なく育った娘が、片目失明の元軍人と見合い結婚したが、実は前妻との間に幼い子供がいること知っての困惑と、共に人生を歩む決意。
・立原道造「夢見たものは」―「夢みたものは　ひとつの幸福　ねがったものは　ひとつの愛」と謳った情景を想像して抱いた感懐。立原は詩作の際、肺尖結核で療養中で、24歳で夭逝した。