非常の剣

若き武士、杉田弦八郎は、密貿易を取り締まる洲ノ鼻の番所頭に任命される。許嫁の弓江との祝言を心待ちにするが、叔父の棋兵衛からは「まず役目を果たせ」と諭される。しかし、就任祝いの夜、弦八郎が宴席にいる隙に番所が襲撃され、部下は皆殺しにされてしまう。

親友の建部金吾が死の間際に残した「丸に五」という謎の言葉を手がかりに、弦八郎は捜査を開始する。やがて、藩の上役である笹目元右衛門が密貿易一味の黒幕であり、「丸に五」が彼の家紋であることを突き止めるが、逆に罠にはめられ役目を解かれてしまう。

正攻法を絶たれた弦八郎は、自ら酒と女に溺れる放蕩者を装い、一味の懐へ潜入する。芸妓・小光の協力を得て、ついに悪党一味の会合の場を突き止めると、法で裁けぬ悪を断つべく、たった一人で「非常の剣」を抜き、壮絶な戦いに身を投じるのであった。


・主な登場人物
杉田 弦八郎（すぎた げんぱちろう）
物語の主人公。若くして洲ノ鼻の番所頭に抜擢された実直な武士。藩にはびこる巨悪を討つため、非情の決断を下す。

根上 棋兵衛（ねがみ きへえ）
弦八郎の叔父。武辺一徹の頑固者で、口を開けば諺ばかり言うため「諺の棋兵衛殿」と呼ばれる。厳しくも甥の身を深く案じている。

弓江（ゆみえ）
棋兵衛の娘で、弦八郎の許嫁。弦八郎の身を案じ、彼の決断に従う。

建部 金吾（たてべ きんご）
弦八郎の旧友で番所の部下。襲撃で命を落とす際に、事件の鍵となる「丸に五」の言葉を遺す。

笹目 元右衛門（ささめ もとえもん）
藩の目附役で番所の総取締。密貿易一味の黒幕であり、家紋は「丸に五」。

小光（こみつ）
歌妓。当初は笹目たちの手先として弦八郎に近づくが、彼の誠実さに惹かれ、命がけで協力するようになる。

難波屋 次郎吉（なにわや じろきち）
唐荷売買を営む商人。密貿易一味の資金源であり、役人たちと結託している。




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