作品紹介
岸島出三郎は、部屋住みの三男で21歳、幼い頃からおとなしくのんびりした性分だった。隣り屋敷の新村の末娘七重とは幼なじみで、二人ともほとんど口をきかなくともお互いの気持ちがよくわかり、手まねや身ぶりや、簡単な目くばせなどで充分に用を便じる仲だった。出三郎は新村家の宵節句に招かれた。雛祭りだから集まるのは女性ばかりだが、その日は九百五十石の老職の息子、笠井忠也も来ていた。忠也の座持ちがいいので娘たちはすっかり興に乗って宴は盛り上がった。出三郎は兄に見つからないように先に帰った。部屋に入って脱いだ着物を畳んでいると、袂の中から一通の封じ文が出てきた。読んでみると恋文だった。
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