作品紹介
山瀬平三郎は極めておっとりとした気質で、川越藩秋元家の小姓組で書物番を勤めていた。平三郎には放心癖があって、袴の前後ろが分からなくなったり、出仕の支度で紙入れの代わりに旅を懐中したり、扇子を忘れて文鎮をもっていったりする例がいくらもある。父の新五兵衛はそれをおおらかに笑っていたが、母のなお女には心痛の種で、小間使の八重を彼に附けることにした。それから八重は平三郎の着替えの世話や、持ち物の心配や、寝床の面倒など身の回りのすべての世話をした。平三郎は父の友人に勧められた縁談を承知した後で、出仕の支度で八重を見た時、自分の本当の気持ちに気が付くのだった。
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