作品紹介
幼いころから人間を見ただけで涙が出てしまうほどの厭人病者であった征木愛造は、両親の死後は大学を退校し、土地家屋を売り払い、それあるがゆえに借り受けた借家の、お気に入りの土蔵の中に閉じこもって、究極の引きこもり生活を送っていた。そのように人嫌いな征木にも、例外として、池内光太郎というたった一人の友達がいた。ある日、池内が言うには、彼は最近、人気女優・木下芙蓉と「近づき」になったという。その芙蓉が、同じ小学校に通っていた木下文子であると聞かされる。文子は、征木が少年時代、密かに恋焦がれていた少女であった。その後、池内とともに芙蓉の舞台を観劇したのがきっかけとなり、芙蓉も交えた三人で食事をしたり劇論を交わしたりするうち、芙蓉が自分を尊敬し、自分に傾倒し、親愛の情を抱いていると思い込んだ征木だが、あるとき、自分がとんだ道化役を演じさせられていると知ることとなる。裏切られたのだ。征木の芙蓉への一途な憧憬が、揺るぎのない殺意へと転じてゆく。彼は捨てきれぬ愛執をもって、彼女の心のほうを放棄し、肉体のみにターゲットを絞ったのである。そして、征木と芙蓉との日々は、芙蓉の死後から始まるのであった。
新着作品
週間総合ランキング
読み込み中...