作品紹介
魚津まで蜃気楼を見に行って、東京へ帰る電車の車両の乗客は、「私」ともう一人の男だけだった。男は、電車の窓の外に向けて立てかけてあった額のようなものを、風呂敷に包んで仕舞うところであった。チラと見えた額の絵の生々しさと、彼の行動と風体の異様さに、不気味さに、恐怖と好奇心を掻き立てられた私は、その男に接近しないではいられなかった。男は、私にその額を見せてくれると言い、再び荷をほどいて窓際に立てかけたものを見ると、それは奇妙な押絵細工であった。白髪の老人と十七八の美少女が、仲睦まじく寄り添う構図のその絵の、老人の方の身の上話が聞きたくないかと問われ、私が思わず、聞きたいと答えると、さて、男は世にも不思議な物語を始めたのであった。
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