作品紹介
戦地で重傷を負いながら、一命をとりとめて帰還した須永中尉の、その重傷の度合いが尋常ではなかった。両腕も両足も根元から失っており、耳も聞こえなければ、声を発することもできない。残されたものは、いくらか鈍くなった頭脳と、口ほどにものを言う涼しくつぶらな両眼で、鉛筆を口にくわえて、簡単な筆談もできる。名誉の負傷の中尉と、妻・時子との日常は、上官少将の好意によって供された離れ座敷で、ささやかに密やかに営まれていた。女盛りの時子としては、夫との性的な生活も必然的なものであった。そのような営みのうちには、相手の特異な姿態ゆえに、サディスティックな行為を伴うこともあり、ある日、激昂した時子は、夫に唯一残されていた視覚をも奪ってしまう。
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