作品紹介
ある工場の守衛を務める栗原さんは、物事に飽きっぽいたちだとかで、どんな職業に就いても一年とは持たず、転々とする合間の失業期間に、浅草公園のベンチに座って暇つぶしをしていたところ、一人の若者が声をかけてきた。「どっかで御目にかかりましたね」と言われたが、一向に覚えがない。その後、話を続けても、名乗り合っても互いに思い出せない、と笑い合った途端に、田中と名乗る相手の青年の笑顔に、見覚えがあるような気がしてきた。栗原さんはその場で田中青年と懇意になりその日は別れたが、後日その下宿を訪れたところ、田中が「わかりました!」と言いつつ、古びた女持ちの手鏡を持ち出し、その中から一枚の写真を取り出した。その手鏡は、すでにこの世を去った彼の姉の形見であるという。
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