作品紹介
どんな趣味や遊びをしても退屈の虫がおさまらない「僕」の知人のTが思いついた奇想天外な遊戯は、自分の妻が他の男と接するときの様子を観察するというものだ。しかも、『他の男』の役を自分自身が演じた。寝入った後の夢うつつのときに、自分の付け髭を触らせてみたり、他人のイニシャルが印された小道具を置き忘れていったように見せかけたりと、手の込んだやり方で、あたかも妻が、自分の留守中に間男を連れ込んだような証拠を作り出し、自分の女遊びへの妻の攻撃力を弱めるという魂胆もあったようだ。これが二度三度と見事に成功した。ところが、薬が効きすぎたのか、妻の心が、みずから演ずるところの『他の男』のほうにどんどん移ってゆく。こうなると、Tとしては、本来のTとして生きていくか、全く別の男として妻と新たな生活を始めるか、真面目に悩むことに…
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