作品紹介
「僕」が小学教員をしながら、進学のための学資を稼いでいたころ、新聞社に勤めるＲという中学時代の先輩を度々訪ねていた。非常にマニアックな知識を豊富に持つＲが、ある日、面白いものを見せてやるといって、僕を盛り場の汚い劇場へ連れて行った。そこでは「百面相役者」と名乗る看板俳優が複数の役を演じていた。どの役も、どう見ても同一人とは思えないほどの巧みな扮装術を目の当たりにして、すっかり面食らった僕に対して、Ｒは、芝居見物後の深夜にもかかわらず、見せたいものがあるから自分の家に寄れという。Ｒが押入れから探し出して私に見せたのは、「又しても首泥坊」と題した一年前の新聞記事であった。墓地を掘り返して首を切断して盗み去るという猟奇的な事件と、今日観た百面相役者との間に係り合いがあるに違いないと、Ｒは言うのである。
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