作品紹介
木綿問屋に住み込みで長年勤務し、もうあと三年で年季を終えて暖簾分けというところで、彦太郎は、幼少からの寝ぼけ癖が悪化した夢遊病症状が問題となって解雇されてしまった。家に帰れば、小使業でその日暮らしの父親から、来る日も来る日もお小言だ。それが言い争いになり、取っ組み合いになり、ということが毎晩のように繰り返されるある日、朝、目覚めた彦太郎は、父親が家の中にいないのに気付き、庭のほうを見ると、父親がそこの籐椅子にもたれ込んでいる、死んでいるのであった。頭部にひどい外傷がある。思い当たるのは、誰をともなく呪い、「死んじまえ!」と怒鳴りながら重い文鎮を机にたたきつけていた昨夜の自分の行為だ。何の記憶もないが、夢遊病の自分が父親の頭を文鎮で殴りつける光景が浮かぶ。警察による現場検証が進む中、彦太郎の頭の中に「逃げろ!」と叫ぶ声がする。彦太郎は逃げる、逃げる、逃げる。彦太郎の逃亡は東京の、いや、この世の果てまでも続くのだ。
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