作品紹介
病のために二十歳の若さでこの世を去った弟の初七日の夜、「私」は、そこにあった弟の日記帳を繰りひろげて見ている。そこには、だれもが抱くような、いわゆる青春の悩みなどが、内気で臆病であった彼の性質をうかがわせるような文章で書き綴られているが、三月九日のところに至って、驚いたことには女の名前が出てきたのである。相手は、私もよく知っている遠縁にあたる家の娘で、二人の間で何度か文通がおこなわれていたことがわかった。注意してみると、日記に記された文通の日付に引っかかる点があり、恋文?にしては葉書というのもおかしい。私はこの謎解きに夢中になってしまった。私がこの謎を突き止めないではいられなかったのは、私には、この事実を心安らかに受け入れることのできないデリケートな事情が存在したからであった。
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