アラビアンナイト</breath>
ナレーター浅見ゆい
再生時間 02:47:54
添付資料 あり(3)
出版日 2020/11/5
販売開始日 2021/2/8
トラック数 7
購入音源の倍速版 なし(アプリでの倍速再生は可能です)
作品紹介
※本作品はバイノーラル録音を使用しています。ヘッドフォンやイヤフォンでご視聴ください。
バイノーラル録音用に書き下ろされた、臨場感あふれる寝物語。
知的好奇心を刺激する現代的改変『千夜一夜物語』。
■プロローグ
科学の曙光で退屈の闇を駆逐せよ。
無為は悪なり、娯楽は善なり。
幸福の追求という至上命令をけん引する両輪。
一つはハード、携帯端末は発達して寸暇に入り込み。
一つはソフト、誰もが発信者となれる環境は、コンテンツの多様性を爆発的に増大させた。
産めよ、増やせよ、電脳世界に満ちよ。
世は、大エンターテイメント時代。
そして今、一つの悪が打ち倒されようとしていた。
布団に入ってから眠りに落ちるまでの時間。
それは、ゲームや動画には向かない時間。
明るい光は意識を覚醒させ、眠りの質の低下を招き、翌日に障ってしまう。
集中力の低下は仕事や勉強の効率の低下にも、そして何よりエンタメの満足度の低下にも繋がる悪である。
故に、かつては布団の中では音声作品が嗜まれてきたが、より良い物を追求するのが資本主義、消費社会、自由経済、そして科学の徒の習わしである。
そんなこんなで白羽の矢が立ったのは、『千夜一夜物語』の語り部、シェヘラザード。
「マスターのご命令とあらば」
現代サブカル的サムシングによって召喚された伝承の語り部は、うやうやしく一揖した。
顔を上げると、目を伏せてフッと微笑してみせる。
宵も過ぎて更ゆく夜を閉じ込めたような、ラピスラズリ色の瞳が深い知性を感じさせた。
かすかな衣擦れの音を残し、ベッドに入ると、そっと耳に口を寄せる。
薄い唇から紡がれる囁きは、砂漠の夜に吹くそよ風のように涼やかで、サラサラと流れる砂やシュロの葉擦れの音、異国の宵に長くさえずる小夜啼鳥の声を運んで来るようで耳に心地良い。
それは、魔法や魔神が息づく不思議な世界の話。
生き生きとした語りの巧みさは、まるでそれ自体が魔法の如くで。
「マスター、今宵のお話はいかがでしたか?」
語りを終えたシェヘラザードは、惣闇色の髪をかき上げてクスリと笑った。
それは不思議な話だった、とても不思議で……不思議なだけで、全く面白くなかった。
なまじ語りが上手いだけに、内容の稚拙さが際立って、一層残念だった。
悲しいかなエンタメの進歩は、碩学な王妃の話を陳腐にしてしまっていたのであった。
その反応は、シェヘラザードのプライドをいたく傷つけた。
「ひ、ひと月のおいとまを頂けますでしょうか?」
タブレットを一台与えられ、シェヘラザードの現代文化缶詰め生活が始まった。
そして、ひと月後。
シェヘラザードは、濃いクマをこさえた眼を輝かせながら切り出した。
「今宵お話致しますのは、AFでございます」
「AF?」
聞きなれないジャンルに問い返す。
「Alcamy Fiction(アルケミー・フィクション)、空想錬金物語でございます。ふふっ」
かくして、新たな『千夜一夜』の帳が落ちる。
バイノーラル録音用に書き下ろされた、臨場感あふれる寝物語。
知的好奇心を刺激する現代的改変『千夜一夜物語』。
■プロローグ
科学の曙光で退屈の闇を駆逐せよ。
無為は悪なり、娯楽は善なり。
幸福の追求という至上命令をけん引する両輪。
一つはハード、携帯端末は発達して寸暇に入り込み。
一つはソフト、誰もが発信者となれる環境は、コンテンツの多様性を爆発的に増大させた。
産めよ、増やせよ、電脳世界に満ちよ。
世は、大エンターテイメント時代。
そして今、一つの悪が打ち倒されようとしていた。
布団に入ってから眠りに落ちるまでの時間。
それは、ゲームや動画には向かない時間。
明るい光は意識を覚醒させ、眠りの質の低下を招き、翌日に障ってしまう。
集中力の低下は仕事や勉強の効率の低下にも、そして何よりエンタメの満足度の低下にも繋がる悪である。
故に、かつては布団の中では音声作品が嗜まれてきたが、より良い物を追求するのが資本主義、消費社会、自由経済、そして科学の徒の習わしである。
そんなこんなで白羽の矢が立ったのは、『千夜一夜物語』の語り部、シェヘラザード。
「マスターのご命令とあらば」
現代サブカル的サムシングによって召喚された伝承の語り部は、うやうやしく一揖した。
顔を上げると、目を伏せてフッと微笑してみせる。
宵も過ぎて更ゆく夜を閉じ込めたような、ラピスラズリ色の瞳が深い知性を感じさせた。
かすかな衣擦れの音を残し、ベッドに入ると、そっと耳に口を寄せる。
薄い唇から紡がれる囁きは、砂漠の夜に吹くそよ風のように涼やかで、サラサラと流れる砂やシュロの葉擦れの音、異国の宵に長くさえずる小夜啼鳥の声を運んで来るようで耳に心地良い。
それは、魔法や魔神が息づく不思議な世界の話。
生き生きとした語りの巧みさは、まるでそれ自体が魔法の如くで。
「マスター、今宵のお話はいかがでしたか?」
語りを終えたシェヘラザードは、惣闇色の髪をかき上げてクスリと笑った。
それは不思議な話だった、とても不思議で……不思議なだけで、全く面白くなかった。
なまじ語りが上手いだけに、内容の稚拙さが際立って、一層残念だった。
悲しいかなエンタメの進歩は、碩学な王妃の話を陳腐にしてしまっていたのであった。
その反応は、シェヘラザードのプライドをいたく傷つけた。
「ひ、ひと月のおいとまを頂けますでしょうか?」
タブレットを一台与えられ、シェヘラザードの現代文化缶詰め生活が始まった。
そして、ひと月後。
シェヘラザードは、濃いクマをこさえた眼を輝かせながら切り出した。
「今宵お話致しますのは、AFでございます」
「AF?」
聞きなれないジャンルに問い返す。
「Alcamy Fiction(アルケミー・フィクション)、空想錬金物語でございます。ふふっ」
かくして、新たな『千夜一夜』の帳が落ちる。
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